湯気の向こうから、ふわりと鯛の香りが立ちのぼる。
鍋の中で静かに揺れる大根に、香りがゆっくりと沁みていく。
派手な演出はない。
ただ、鯛の出汁がすべてを包む。
天神の中心にある店「大晴海」で、今日もおでん鍋が一日を締めくくる。
【鯛出汁で引く、出汁の輪郭】

おでんの出汁には、天然の鯛を使っている。
澄んだ中に、しっかりとした骨格。
味噌でも醤油でもなく、鯛という素材で勝負している。
使っているのは、刺身でも出せるような新鮮な鯛。
贅沢すぎると言われることもあるけれど、
「魚で勝負する店」としての、揺るがない姿勢だ。
出汁は、おでんだけに使わない。
ふわりと香る出汁巻き、最後にやさしく締めてくれる鯛出汁うどん。
すべてが一つの“だし”でつながっている。
【選ぶのは、静かな旨さ】
おでんのネタは、奇をてらっていない。
大根、たまご、こんにゃく──どれも、どこか懐かしいものばかり。
でも、そのどれもが、鯛出汁の旨味で引き立てられている。
・とろけるような「ねぎ袋」
・ふわっとほどける「はんぺん」
・染みてからが勝負の「揚げ豆富」
一口目の熱さと、食べ終わったあとの余韻。
それぞれのネタが、出汁と向き合っている。
【五感で味わう、おでんの時間】
「とりあえずの3種盛り(473円)」で軽く始める夜もいい。
少しずつ選んで「5種盛り(803円)」で静かに満たすのもいい。
カウンターで一人飲む人、テーブルを囲む仲間たち。
大晴海のおでんは、誰かと競うように食べるものではない。
五感に寄り添うように、そこにある。
【締めの一杯まで、同じ出汁でつながる】
出汁は、一杯のうどんにも続いている。
〆に人気の「鯛出汁うどん」は、体の奥まで染みわたる味わい。
酒も料理も、出汁でまとめる。そんな静かな美学が、この店にはある。
【あとがき──鯛の出汁が語る、店の姿勢】
おでんの出汁が美味しいと、お客さんはあまり言わない。
でも、最後まで出汁を残す人は少ない。
それが、この出汁の答えだと思っている。
派手な看板も、映える写真もない。
けれど、“また来たくなる味”が、ここにはある。
天神 大晴海(たいせいかい)
福岡・天神駅からすぐ。落ち着いた和の空間で、魚料理と鯛出汁のおでんをお楽しみいただけます。