アートボード 1
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巻く音が、夜に響く。──一皿に宿る火と出汁の技、大晴海のだし巻き

カウンターの奥、鉄板に落とされた卵液が、ジリリと音を立てる。

「だし巻き、お願いします」

そのひと言が聞こえた瞬間から、厨房の空気が少しだけ変わる。

火の前に立つ手が、箸を構える。
鯛出汁をたっぷり含んだ卵を、静かに、しかし迷いなく巻いていく。

一皿を仕上げる時間は、およそ数分。
けれど、その数分に込められているのは、積み重ねた技と、ひとつの信念だ。

【“焼き置き”はしない】

だし巻き玉子は、注文ごとに焼く
大晴海では、それが当たり前になっている。

理由はただひとつ。
出汁の香りと、火入れの温度。
その“瞬間の仕上がり”こそが、この料理の命だから。

柔らかすぎず、固すぎず。
箸を入れたときにふわりと広がる香りと、しっとりとした口当たり。

サイドがきれいに丸くなるように巻かれたその姿は、
見た目以上に、技の塊だ。

【出汁が語る、店の輪郭】

だし巻きに使うのは、鯛から引いた出汁
おでんや鯛出汁うどんと同じ、“店の味の根”になる出汁だ。

だからこの一皿には、大晴海そのものが映っている。

どの料理を選んでも、どこかに出汁の記憶がある。
それが“まとまり”であり、“余韻”になる。

派手な料理ではない。
でも、通えば通うほど、頼みたくなる。

それが、いい出汁巻きのある店の証拠だ。

【何も足さない、という贅沢】

薬味は少しの大根おろしと、ほんの少しの醤油。
たいていのお客様は、それさえもあまり使わずに食べ終える。

それはきっと、出汁と卵だけで、もう十分だと感じているから。

甘すぎず、塩を立てすぎず、
静かな旨味がずっと残る。

何かを“足す”ことで完成する料理ではなく、
何も“足さない”ことで完成している一皿。

それが、大晴海のだし巻きだ。

【静かな火が灯る夜】

忙しい厨房の中で、だし巻きを焼いている時間だけは少しだけ静かになる。

それは、火を見て、手を止めず、
“焦らずに仕上げる”という緊張が張り詰めるから。

カウンター越しにその姿を見る人もいれば、
ふと香りだけを感じて「自分も頼もうかな」と思う人もいる。

店が満席でも、心のどこかで“落ち着く”空気があるのは、
きっとこの火の存在があるからだ。

天神 大晴海(たいせいかい)

鯛出汁を使った“巻きたて”のだし巻き玉子は、注文を受けてから一つずつ。
おでん、刺身と並ぶ、静かで確かな自信作です。

ランチ 11:00~15:00 ディナー 17:00~24:00(LO.23:00)